小糸製作所ら,新たな白色LED向け蛍光体を開発

2012年 10月 17日 09 : 33 印刷する

小糸製作所,東京工業大学の細野秀雄教授の研究グループ,名古屋大学の澤博教授の研究グループは共同で,新しいLED用蛍光体「Cl_MS(クルムス)蛍光体」を開発したと発表しました。この蛍光体は紫色LEDチップによって黄色光を発します。青色蛍光体と共に使用することで白色光となるので,新たな白色LEDの材料として期待できるものです。

現在白色LEDは,青色LEDチップと黄色蛍光体(YAG蛍光体)を組み合わせたものが主流ですが,窒化物蛍光体は高圧焼成処理が必要なため価格が高いという問題があります。また発光部が狭い点光源状となるため必要以上にまぶしく,照射範囲を広げる場合にはミラーやレンズ等を用いて拡散させる必要があるため,効率の問題もあります。

下はCl_MS蛍光体の組成式と結晶構造です。

主成分がごくありふれた元素で,高圧焼成処理が不要な酸化物ベ-スであることから,研究グループはコスト面でも有利だとしています。

Cl_MS蛍光体は紫色LEDチップと組み合わせることで,紫色光を90%以上の効率(量子効率94%)で黄色光に変換します。ここに青色蛍光体による青色光を加えることで,白色光として取り出すことができます。

Cl_MS蛍光体の特徴として,青色光に対する吸収・変換がほとんど無いという点があります。つまり,青色蛍光体の発する青色光はCl_MS蛍光体の発光特性に干渉しないので,均一な発色を容易に確保でき,歩留まりと製造効率が上がります。

これまでの青色LEDチップを用いた白色LEDの場合,LEDチップによって出力が一定でない現状では,黄色蛍光体からの黄色光と青色LEDチップからの青色光のバランスがまちまちになってしまうため,一定の発光色を揃えるには製品の検査・選別が必要でした。

 

Cl_MS蛍光体を用いて試作した白色LEDは,チップ上に蛍光体を低濃度で混合したシリコン樹脂をドーム状に形成することで,従来のLEDの10倍以上の発光面積を得ることができ,これにより輝度を1/10に下げ,まぶしさを低減しました。

 

一方,蛍光体を低濃度にしたことで蛍光体粒子による光の遮蔽が抑えられ,光束(明るさ)は向上しています。また指向性の無い蛍光体からの光のみで白色光を形成するため(従来は強指向性の青色LED光+黄色蛍光)照射角が広く,発光部を大きくしても,ムラの無い発光が得られます。これらの特長により,これまでのLED照明に必要だった光を拡散させる光学系も不要になります。また実装形態はライン状,円錐状と様々な形が可能になるので,用途に合わせた形を形成することができます。

 

こうした特徴から,小糸製作所ではCl_MS蛍光体を用いた白色LEDは自動車のヘッドライト向けではなく,一般照明向けだと考えています。またCl_MS蛍光体の製造技術はすぐにでも商用に移行できるレベルだともしていますが,まだ具体的なビジネス展開までは考えていないということです。

 

一方,残された課題として,より明るい白色LEDとするためにも紫色LEDチップの性能向上が欠かせないとしています。白色LEDが青色LEDチップベースで開発されてきた経緯があり,紫色LEDチップの性能は青色LEDのそれと比べてまだ遅れています。紫色LEDを用いるCl_MS蛍光体の優位性が認められれば今後はチップメーカによる開発が進み,性能向上が期待できると考えているようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テキストニュース, ニュース / コラム

Comments are closed.